『下山』

 

行きに白衣で身を包んだ人が三人通った
背丈が似ているため何回すれ違っても
一人と数える
帰りは浴衣を着た別の六人が通って
二人目、と数えた
 

 

そんな 虚ろで
山を越えるような感覚でいるために
あなたが待ち合わせ場所に来ても
ぶつからずに通れるよう
ひとつのかたまりとして避けてしまうかもしれないが
 
 
決して 会いたくないわけではないのだ
 
 
 

 

『平成葬儀』

 

十八歳のとき働いていた

居酒屋のオーナー曰く
自身が亡くなったそうだ
LINEで本人から訃報がきた
 
 
一読して  そうですかと
別段変わりない相槌の如く
実感が追いつかない
年月が過ぎ  バイトを辞めてからも
お客として来る人
差し入れを持って従業員入口に現れる人  のある
温かい空間であり  人物だった
時に恍惚とする程に
 
 
故人のスマホから現スタッフの人が
葬儀の日程も教えてくれた
 
 
 
棺に入れられた後
遠くからやって来た一人です
遺影が用意されていたとしても
生前そのもので確かに会えました
私からの追悼文は
iPhone7に綴りました
帰りのバスで落っことしてしまいました
拾得物の届出があったけれど
感謝を胸に手離します
運良く火にくべられたら
天に通じ得るかもしれません

 

 

 

 

『雨待ち夜行』

 

靴屋に向えば、雨しのぎ。

傘が売られているのだ。
私はそれを求めて、
彼者誰時の夜道にひとり漂う。
 
 
店主が大晦日で閉店すると、
留守電を残していったから、
十一月半ば、道路沿いにある人形屋にて、
顔の型をとり、中へ入る。
靴屋の入口はなく、いつも
人形屋の奥にみつけていた。
 
 
天井を覗けば、夥しい数の傘が、
ひらいたままで吊るさっている。
靴を買おうと訪れた人たちは、
殆ど呆気にとられてしまう。
そうしてなぜか、
靴でなく傘の方を選ぶのだ。 
 
 
除夜の鐘を軽快な足音にのせて。
いま心配しているのは、帰りに雨が
降るか降らぬか、それだけだ。
もともと手持ちの傘は二つ。
引っ越し車が何日も前に運んでいった。
 
 
雨は降るだろう。
閉店する靴屋で、傘に手を伸ばす。
私とそっくりな人形が、こちらを見ている。

 

 

 

 

『光の箱』

 

ひごろ心の中で思っていることが

ぼくをつくるのだとしたら

底のない海の奥深くに落下し続ける

あの箱をすくいあげないといけない

明るいところに住んでいる人たちが

メッセージとともにくれたもの


「その箱の中身は  光です」


受け取ったあと

開けようとしたけど開かなくて

気がついたら遥か下のほう

僕の暗闇へと落ちていった

どんなにたくさんの光をもらっても

ぼくの中の細胞が呼応しなければ

光は

光にならないんだ


落下し続ける箱を追いかけて

音のない漆黒の海へと潜る

地球の重力に従い正確に

そう

いまは落ちるべき時なのかもしれない


箱から溢れ出る橙色の光に心をひたせる時刻まで

 

 

 

 

『革命』

暫くは明るいことに追われて。


一歩間違うと筒闇の世界。


半狂乱のときは人里を離れて叫び。


綴った日記だけ未来照らす花に渡せ。


月で狼になるとしたら


何度でも その姿を


確かめに行けばいい。


ずっと僻遠から呼んで、呼んで、


返事がかえって来なくなるまで。





十樹啝(ときわ) プロフィール

 

こんにちは!十樹啝(ときわ)です。

大切な御縁があり、詩、童話などを置かせて戴けることになりました。

瞳に光をさし耳を澄ませてゆっくり歩んでいきたいです。


「花束を渡しに行ける精神でありたい」


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